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新米教師

最寄り駅に着いたとき、幸太が時計に目をやると、夜の11時を廻っていた。
混雑した通勤電車から開放された乗客たちは、速い足取りで家路へと向かっている。
こんな忙しい光景を目にすると、幸太はなんとなく寄り道をして帰りたい気分になる。
駅からの帰り道の途中には、月に何度か通う小さな飲み屋があり、そこの大将とは既に顔馴染みなのだ。今晩も幸太はそこへ立ち寄ることに決めた。
店の扉を開け、いつものように大将に軽く挨拶をすると、カウンター席には女性の客が1人いた。パッと見た印象では幸太より若い。年齢は20代前半のようだ。
「大将、今晩は邪魔しちゃったかなあ?」
「なに言ってんだよ。客が来ないと商売にならないだろう。幸太が来てくれて嬉しいよ」
カウンター席の女性は、「右隣に座って下さい」とばかりに椅子に置いていた荷物を左側に移動してくれた。幸太はそこに座り、芋焼酎とこの日のお薦めメニューを注文した。
すると、彼女の方から「はじめまして」と幸太に挨拶してきた。幸太が名前を尋ねると、彼女は「リカです」とそう答えた。職業は日本史を教える高校教師で、まだ1年の新米らしい。女子大生のような雰囲気がまだなんとなく残っている。
「実は、俺…飲み屋で教師の人と逢ったのは初めてなの。『聖職』というイメージもあるし、なんだか隣には別世界の人がいるような気になってくるなあ」
幸太はそう言うと、大将から手渡された芋焼酎を軽く口にし、煙草に火をつけた。
「別世界の人だなんて…私だって同じ世界に住んでいると思いますけど?」
リカは笑いながらそう答えると、幸太に合わせるかのように煙草に火をつけた。
「ただ、他の職業とは違って、教師にはプライベートの行動を自制している人が多いなとは思いますけどね」
「疲れそうな生活だなあ…」
「あくまで、想像ですけど…例えば、未成年である生徒たちにお酒を飲んだり、煙草を吸ったりするところを見られたら、彼らが同じことをしていても注意しにくいじゃないですか。そんなことも原因としてある気がしますよ。私なんかは、学校を離れたら普通の人になりきればいいのにと思ってしまうタイプなので、当てはまりませんけど…」
リカの言葉を聞いて、幸太はある程度自由な生活を過ごすことが許されているのだということに気がつかされた。しかし、彼女のようなタイプの人間が教師になろうと思った理由については全く想像がつかなかった。
「私の場合、そもそものキッカケは誰よりも不純なんです。実は、教員免許が欲しかったという理由だけですから…」
「それって、ホント?」
「ホントですよ。『今の時代の生徒たちとどこまで渡り合えるか挑戦してみるのもありかな』と思って教職に就こうと決めたのは、教育実習を受けた後からです」
「そんな短い期間で?」
「はい。生徒たちも私のことを実習生という目でしか見ていなかったんです。私の心の中を見透かされたようで悔しかったですね」
振り返ってみると、幸太には好きだったと思う教師はほとんどいない。
ひと握りの優秀な生徒のことしか考えられないエリートタイプばかりだったし、リカのようなチャレンジ精神にも欠けている気がした。そんな彼らとは正反対のタイプのように思えるリカには理想の教師像みたいなものはあるのだろうか。幸太は気になって仕方なかった。
「ありふれているかもしれませんが、生徒たちが卒業してからも、彼らから連絡を取りやすい教師になることですね。学校という後ろ盾がない場所の方が私に教えられることは多い気がするし…」
「そう言えるのはすごいと思うなあ…」
「学生時代、散々遊びましたからね…」
「でも、教師が心の中でそう思っていても生徒を待つしかない立場というのが現実だから、そんな関係を築くのは難しくない?」
「そうですね。生徒たちに対して、可能な限り平等に接しなければなりませんし…。でも、長く待つと私自身の目標と矛盾してしまうんですよね…」
教師が生徒たちと一度距離を置いてしまうと、彼らの噂を耳にしなくなるのはよくある話だ。幸太自身も卒業後に教師とやり取りをした記憶は年賀状程度のものしかなく、リカが葛藤する理由はよく分かる。
「きっと、私が目標に近づくためには部活動の時間を有効に使うしかない気がします」
「顧問を担当しているんだ?」
「ええ。今は学生時代に経験があるバレーボール部を男女とも担当しているので、よく顔を出していますよ。身体を動かしたい衝動に駆られるから、彼らが試合形式の練習で人数に困っているときなんかは…」
「穴埋めで参加するとか?」
「もちろんです。女子だけでなく、男子の方にも参加しますから」
「元気な先生だねえ」
「スパイクを綺麗に決めると、いい気分転換になるんですよ。ただ、彼らには『先生、1本決めて仕事の憂さ晴らしできた?』とか言われますけどね」
「先生思いのいい生徒たちじゃない?」
「言うことが少し生意気なのが癪に障るんですけどね。でも、私が言うのも難ですけど、今の雰囲気は最高にいいと思いますよ。生徒たちの顔は授業中のときと全く違いますから。あははは…」
幸太には、店内に響いたリカの笑い声が今の彼女と生徒たちとの距離そのものであるように思えた。
〆
<Postscript>
久し振りに発表してみました。
今回は『夢』をテーマにした作品ですが…『夢』という意味では敢えてボヤケさせてます。なんていうのかなぁ…。教職に就く人は、実は…『なんとなくなっちゃったという人が多いんじゃないのかな』という疑いを自分は持ってるの。だから、昨今…学校でアレだけの問題が起きていると思うし、ナイーブな先生は自殺して亡くなったり…というケースも多々見られるようになったのではないかと思うのです。
尤も…俺に言わせれば、、、
そんな性格の人は『ソモソモ教師に向いてない』と思うんだけどね。
コレからは、リカみたいなタイプの先生でなければ務まらないのではないかなぁ…。
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