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- 【05-A. 自作小説系】の親カテゴリは、「05. オリジナル作品」 です。
仮面
今朝の朝刊に折り込まれたチラシの中に、とても明るい色調のものが1枚紛れ込んでいた。
早苗はそれを手にとって、読んでみた。お店の名前は、メラービリョージョ。自宅の最寄駅の2駅隣に、今日オープンするらしい。『あなたは容姿にコンプレックスを感じたことはありませんか?』というキャッチコピーが大きな文字で書かれている。
その店では、容姿のパーツ交換から身長の伸縮まで、1箇所あたり2万円でできるらしい。
たとえ、それが顔の交換であったとしても、アンパンマンの顔をバタコさんが新しいパンを投げて交換するような仕組みで瞬時に実現が可能だという。
ただ、パーツ交換自体が容易であろうとも十分な注意が必要だ。
一旦、交換してしまうと、最低2週間は元に戻すことができないらしく、組み合わせたときの体型バランスについても保証の限りではないようだ。その旨はキチント記載されている。
これらの但し書きは抑制力があり、早苗を躊躇させた。
早苗は生まれてから25年、顔にコンプレックスを感じながら生きてきた。
小学生の頃から、「オマエの顔って、表情がなくて、なんだかノッペラ坊みたいだな」とクラスメイトの男子に散々言われた。
あのときの記憶が強く刻み込まれているせいだろうか。
体型は標準的だと思ってはいるものの、容姿は今でも全く自信が持てない。今まで彼氏1人できたことがなく、男もそんな心を見透かしているのだろうか、言い寄ってはこなかった。
早苗が物心がついた頃には…
父は髪の毛が完全に後退し、見かけ的には平凡以下に成り下がっていた。母も笑顔が少なく、その間に生まれた娘では仕方がないことなのだろうと、半ば諦めに似たような気持ちが早苗の心をずっと支配していた。
気がつくと、早苗はメラービリョージョのチラシを繰り返し読んでいた。
「もしかしたら、私にとっては千載一遇のチャンスかもしれない」という気分になってきた。思い切って、お店の様子を見に行ってみようと早苗は決心した。
店内はオープン初日ということも影響していたのだろうか。
1階から3階まで、どこのフロアも非常に賑わっている。すれ違う客の顔をチラチラ様子見してみると、早苗から見ても顔が冴えない男性客と女性客ばかり。世の中には、同じようなことで悩んでいると思われる人がこんなにもいるのかと改めて思い知らされる。
そんな人たちの流れを横目で見ながら、早苗も好みの顔の「品定め」をしてみることにした。
表情が豊かそうな子がイイなとは思っていたが、さすがに華やかな顔が多い。女性タレントのオタクっぽい男性客は、持参してきたデジタルカメラで好みの女性の顔写真を真剣な眼差しで何枚も撮っている。
それから10分ほど経ったとき…
バラエティ番組によく出演している女性タレントの顔に目が釘付けになった。
テレビで観る限り、彼女の体型はスレンダーという訳ではないが、いつも明るく元気で大きな声で笑う。早苗に決定的に欠けている明るさが彼女には漲っている。男性から見ても好印象を与えてそうな気がする。
早苗は自分自身の顔を彼女のものへと置き換えた姿を頭の中で想像していた。
「お客様、よろしければ、その顔をお試ししましょうか?」
男性店員が横から声をかけてきたので、早苗は思わず反射的に頷いてしまった。
「では、こちらのお試しルームへどうぞ。お試しルームでは、お客様の全身写真を撮った後、その画像を入れ替える形で、パーツ交換後のイメージを色々なアングルから確認することができます。もし、お客様がお気に召されたようでしたら、こちらの番号札をレジの方へお持ち下さい。パーツ交換につきましては、購入前に誓約書をお客様に記入して頂いた後、レジの奥にある部屋で作業を行います」
お試しルームの音声案内の通り、早苗は全身写真を撮ってみた。
そして、画面のメニュー案内に従う形で、自分自身の顔をお目当ての女性タレントのものへと入れ替えてみた。「証明写真を撮るような感覚で色々なものが試せるな」と思っていたが、1枚目から早苗の予想以上にサマになっている。
「これだ!」と思って、お試しルームを出たそのときだった。
勤務先の男性後輩社員の姿が一瞬、目に入ってしまった。
彼の年齢は、早苗の2つ下。
少し老け顔でお世辞にも格好良いとは言えないが、『気配りができるし、とても優しくてイイ子』と女性社員の間でも性格は評価されていた。しかし、こんなところで見かけるとは思ってもいなかった。
「もし、このまま女性タレントの顔に交換して出社してしまうと、彼にカラクリがバレてしまう…」
と思った瞬間だった。枕元で目覚まし時計が激しく鳴り響き、早苗は妙な夢から覚めた。
現実でなくて良かったという安堵感など、どうでも良かった。
夢の世界でさえ、変身願望を叶えることができなかった自分自身に対して、早苗はため息をつかずにはいられなかった。
〆
<Postscript>
今回の習い事の宿題は、『転生』がテーマだったのですが…
何故こんなものが浮かんだのか、自分でもよく分かりません。突然でした…(;^^)
こういったものは、勿論書いたことがありません。
試行錯誤だったのですが…思った以上に面倒臭かったですね。現実と異なる世界を表現する際は、こちらから色々と提示せねばならないですし…。そんな訳で、粗探しをしてしまうと、修正せねばならない箇所があちこち出てくるのですが、今回は敢えてそれを放置した…オリジナルにかなり近い形で掲載してます。。。
ちなみに、今回の早苗はとても気弱な子ですが…
「こんな性格の子は、夢の中でもきっとこうなんだろうな」と自分は思ってます。そんな子に対して、仮面を被らせてあげることも必要なのでしょうが…敢えて、被らせておりません。被らせないことが自分自身は大事だと思うし、早苗自身も気付くことがあるだろうと思うからです。
結局、こういったことは、繰り返さないと自分自身を変えようという発想へは至らないんですよね…(;^^)
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チョコレートケーキ
夕食を済ませた一樹は…
「今日はデザートがあるからね」と母に言われ、冷蔵庫の扉を開けてみた。
見覚えのあるショートケーキとチョコレートケーキが1切れずつ、皿の上に乗っていた。
一樹の母は、駅前のケーキ屋さんと幼馴染で、店で売れ残ってしまったケーキをたまに貰ってくることがある。
「一樹、冷蔵庫を早く閉めなさい」
背中越しに母の声が聞こえた。
ケーキの皿を慎重にテーブルの上に置くと、妹の美沙が嬉しそうにそれを覗き込んだ。
その真剣な表情を見て、どちらを食べるか、一樹も考え始めた。
美沙はショートケーキが大好きだ。
生クリームと一緒にいちごを食べることができるのがその理由らしい。
ただ、小学校4年生になって、嗜好が少し変わり始めている。
この間は、「お母さん、たまには違うケーキを貰ってこれないの?」と生意気なことを言っていた。
「お兄ちゃん、どっちがいい?」
美沙は一樹に考える間を与えずに訊ねてきた。
こんなとき、どちらを食べたいか、美沙は必ず決めている。
一応、妹という立場を考えているのか、必ず確認はしてくる。
しかし、それは「絶対に譲りたくない」という意思表示であり、形だけのものでしかない。
「チョコレートケーキが食べたいなぁ…」
「えーっ」
思惑が外れて、美沙は驚いている。
「この間の日曜日にみんなで渋谷へ行ったとき…
お兄ちゃんはチョコレートケーキを食べたばかりじゃん?」
「渋谷は渋谷、俺が駅前のケーキ屋で1番好きなのは、このチョコレートケーキなんだよ!」
「お兄ちゃんのウソつき。この間、お兄ちゃんはなんて言ったか覚えてる? 『俺が駅前のケーキ屋で1番好きなのは、このショートケーキなんだよ!』とか言って、美沙はお母さんに我慢させられたんだよ!」
「じゃあ、先週の金曜日のことを覚えているか?
テレビで野球を観ようとしていたのに、美沙のためにドラえもんに変えてやっただろ?
今日はその借りを返してもらうときなんだよ!」
「テレビとケーキは別でしょ?」
話題が逸れ始めた。台所で皿洗いを始めていた母が手を止めて、やってきた。
「2人とも、喧嘩せずにさっさと決めて食べなさい。喧嘩をするなら、両方とも私が食べちゃうわよ!」
「お母さん。だって、お兄ちゃんが美沙にウソをついたんだもん…」
「そうなの…。じゃあ、今日はお母さんが決めるわよ。
チョコレートケーキは美沙。ショートケーキは一樹。イイわね?」
「わーい」
「いきなり間に入ってきて、それはねえだろう?」
「一樹、お母さんも覚えているわよ。お兄ちゃんなんだから、今日は我慢しなさい。
2切れしか貰えなかったから、お母さんは食べたいのを我慢しているのよ。
嫌ならケーキは食べなくてもいいの。お母さんが食べるから」
「分かったよ。クソッ…」
満足げな笑みを浮かべ…
「オイシイ」と言いながらチョコレートケーキを食べる美沙の横で、一樹はショートケーキを食べ始めた。
チョコレートケーキを食べられなかった悔しさを押し殺しながら、一樹は口の中にこびりついた生クリームをなめた。
〆
<Postscript>
先日の習い事に合わせて、久し振りに書いてみたものです(※原稿用紙4枚程度)。
「兄弟でどちらかを選ばなければならないときに、弟が不利にならないようにすること…」的なことを何かしら書こうと思っていたのですが、ウチの兄弟は食べ物に関していえば、あまりこんなことはしてこなかった記憶があり、違和感がありました。そんな訳で、“兄妹”に切り替えて、これは書いてます。
ポップ?なものを公開するのは恥ずかしいんですけど、たまにはありですかねぇ…(;^^)
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遡上
8月の下旬頃、僕は友達と気分転換も兼ねて…
丹沢の山間にある温泉旅館に宿泊してきた。丹沢は箱根よりも東京に近く、宿泊料金は少しだけ安い。そんな理由で選んだ宿であったが、行ってみると、周囲は緑豊かで、近くには小さな川が流れており、環境はとても良い。僕が持っている携帯電話は圏外というサインを発し、秘境の中にいることをさりげなく教えてくれた。
旅館へ着いたのは、夕食どきだった。
僕たちは温泉へ浸かる前に、まずは腹ごしらえをすることにした。
食堂へ行くと、隣の席で小学校低学年くらいの子供が2人いる…
家族連れのグループが先に夕食を楽しんでいた。父親は、鮎の塩焼きを口にすると、子供たちに、
「この鮎の塩焼きはウマイぞ。食べないともったいないぞ」
と言っていた。
父親のその言葉を聞き、旅館の玄関先にあった水槽の中で、楽しそうに泳いでいた鮎の姿が思い浮かんできた。
僕は生まれ変わるとしても、魚にはなりたくない。
その中でも、多くがわずか1年で生涯を終える鮎のような魚にはなりたくないなと思う。
鮎は水質の良い川の下流で生まれるが…
程なくして、川の流れに乗り、生きるために必要なプランクトンがある海へ向かう。
そこがとても安全な場所ならばいいが…
ときには巨大な船が通ったり、鮎を狙う魚がいたり、快適とはとても言い難い。
まさに過酷な修行であり、エンドレスの鬼ごっこのようにしか思えない。
そんな場所でしばらく要領良く立ち回り、身体を成長させた後…
鮎は涼しい場所を求めて、川を遡上する。そして、安住の地を見つけると、鮎はそこで縄張りを作る。
鮎は仲間意識が強く、餌の多い場所に侵入してくるものがいると…
体当たりをしてでも守ろうとする。しかし、人間はその上を行く。その性質を逆手に取り、鮎の縄張りに邪魔者を入れて釣り上げる「友釣り」で迎え撃つ。つまり、生きの良い鮎ほど、その罠には引っ掛かりやすく、水槽という収容所へ強制的に連行されてしまうのである。
そんなことを思いながら、子供たちの前に出されている「鮎の塩焼き」へ僕は目をやった。
初夏を迎えた山間部では、「鮎の塩焼き」は定番料理の1つである。
水槽の中にいた鮎たちは、ある日突然、大雑把に引き上げられ、罪を犯していないにも関わらず、いきなり命を取り上げられたのだろう。喉元から太い棒を突き通され、塩を振られた後、そのまま囲炉裏に刺されて火炙りの刑に処された姿は、プライドを傷つけるようなことを散々やられて、くたびれ果てている。
そんなことを思いながら、また鮎の塩焼きを見ていたら、子供たちが皿に手を伸ばした。父親は、
「鮎は頭から尻尾まで食べられるんだぞ」
と言った。母親はその言葉に相槌を打つと、子供たちは言われた通り、ゆっくりと食べ始めた。
「お父さん、これウマイよ」
「そうだろう。鮎もウマイけどな、他の魚も今度は少し食べてみろよ。
魚にはカルシウムがイッパイ含まれているし、今日のように食べると、お母さんも喜ぶぞ」
「うん、分かった。頑張ってみる」
苦手な魚にガブツと勢いよく食らいついた子供たちに…
僕は心の中で拍手をせずにはいられなかった。鮎もこれで成仏できるだろう。
もしかしたら、その鮎は神によって天国へと導かれるかもしれない。
そう考えてみると、人間の口に入ることも許されずに捨てられてしまう塩焼きの鮎は…
さらに最悪の事態が待っている。無用な物と一緒にされて、息苦しい空間の中で圧縮の刑に処された後、ゴミ収集場で、これでもかというくらいに二度目の火炙りの刑に処せられてしまうのだ。
そんな鮎にとって、人間はとても恵まれた残酷な生き物でしかないだろう。
しばらく経つと、夕食を待っていた僕たちにも…
隣の席と同じように、よく焼けて美味しそうな「鮎の塩焼き」がやってきた。
僕は鮎に対して、感謝の気持ちでいっぱいになってきた。
頭からガブッと食べてみた。口の中には、1年という短い運命が凝縮した旨味が拡がった。
目の前にいる友達も僕と同じように、頭部から鮎の塩焼きを食べ始めた。
綻んで行くその表情から、僕は川を遡上する生きの良い鮎の姿を思い出した。
〆
<Postscript>
久し振りに習い事で提出している宿題をアップしてみました…(;^^)
この春から、習い事は志賀直哉の作品をテーマに書いてます。
ちなみに、今回は、『城の崎にて』だったのですが、この…お手本の描写がとても素晴らしい出来で、話のテンポが絶妙。しかも“生と死”という重たいテーマを取り扱っていたこともありたこともあり、原稿用紙5枚分の文量とはいえ、生みの苦労はかなりのものでした。
転機となったのは、今日の授業の2週間前という絶妙のタイミングで行った丹沢。
都内からそんなに距離がないにも関わらず、「箱根よりも地味で、落ち着いて何かを考える」という環境がココにはありました。そして、閃きました!
ちなみに、この作品を書き始める前…
「生と死を考えながらも、その中に自分自身の美感を込めたいなぁ…」と思っていたのですが、余計なことを考えると、このようなテーマではドツボにはまりますね。どこから取り掛かるべきか…それを見失ってしまいました。
そんなときにふと目が合ったのが、このアユでして…
ソコに色々なアレンジを加えながら、そのときの感情の起伏を素直に表現してみました。
最近は集中できる時間を作ることが難しくなってきて、、、
この程度の文量でも消化不良気味に終わってしまう作品が続いてましたが…今回はタイトルも含めて、自分が頭の中で描いていた雰囲気…それなりに出せたと思ってます。雑な点、色々あるとは思いますけどね…(;^^)
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